江古田であそぼ

2015年08月25日
暮らしを美しむ小道具の店 環

日本の良いものがギュッと詰まった伝統工芸と和雑貨のお店。あたたかみのある雑貨がホッとする空間を作り出し、私達の生活に彩りや潤いを与えてくれます。この店なら、大切な人への素敵な贈り物もきっと見つかるでしょう。気さくに何でも話してくれる店主の佐藤さんの人柄もこの店の魅力の一つです。

 

 

――お店を始めようと思ったきっかけについて教えてください

もともとサラリーマンでした。会社の仕事をしながら、海外に駐在した時期があって、その時に外から日本を見てみて、あんまり元気がないなと、何でこうなんだろうと思ったんです。それに、外から見た時に日本の文化ってすごくいいのに、日本人は自分達の文化に対してあまり誇りを持てていないなと思いまして、そういうのがずっと引っかかっていました。それで、日本に戻ってきてから、日本の文化の魅力をもっと人に伝えるような仕事をしたいなと思って、小売店にいきなり転身してしまいました。なかでも、自分が知らない歴史や文化を見て歩いたり、文献を読んだりした中で、特に漆にとても興味を持ちました。

 

――漆との出会いはどのようなものだったんですか?

青森県の出身で、小さい時は家の中に津軽塗が普通にある環境の中で育ちました。その後、引っ越した先が福井県で、輪島塗や越前塗のある工芸が盛んな土地でした。そこでもやっぱり、漆を普通に日常の器として使っていました。でも、自分が一人暮らしを始めた時に持っていた物って、プラスチックの塗りのお椀だったわけですよ。でも、見た目や違いは分からずに使っていたんです。そんな中、実家に帰った時に「あれ、やっぱり感触が違うな」と実感したり、そんな事を積み重ねていくうちに漆の良さを再認識しました。中国に駐在していた時に、向こうも漆の文化があって、螺鈿(らでん(※3)の貝殻を装飾に使っているような、そういう宝石箱みたいな物を作っているエリアがあることを知りました。そこの博物館を見た時に、日本の加工精度と全然違うなと思ったんです。これが伝わって日本ではあんな風に昇華されて、きれいになったのかと思いました。

 ※3 螺鈿:漆などの伝統工芸に用いられる装飾技法の一つ

 

――お店のコンセプトはどのようなものですか?

日本の手のぬくもりを感じるような品物で、大手の流通に乗らないような、地方の良いものを紹介していくというのが、コンセプトですね。なので、できるだけメイドインジャパンの商品を揃えています。

 

――商品を決める上でのポイントやこだわりはありますか?

まずは、自分が良いなと思うものを扱っています。つまり自分の美意識のフィルターに通せるものかどうかですね。通らない物は、私が扱っても多分売れない。ただ綺麗なだけでは意味がなくて、実用的で、自分なりにこういう風に使うシチュエーションがあるだろうと思えれば、多分みんなのニーズもあると思って選んでいます。やっぱり朝起きてから寝るまでの間の生活スタイルは、みんなそんなに変わらないですよね。それは自分が生きている中で分かっていることだから、ただかっこいい、綺麗というだけで使い続けられるかというと、意外とそうじゃないですよね。

 

――お店を江古田にした理由は何ですか?

テナント探した時に1番最後に江古田に辿り着きました。二年かけて出店場所を探していて、見つからないなと思っていた時に、そういえば練馬は探したことなかったなと思って、最後に来た所がここだったんです。今の場所に引っ越してくる前は、もうちょっと江古田斎場に近い場所に店を構えていたのですが、そこがまさにこんな所で商売したいなと思っていたテナントだったんですよ。それからご縁を感じて出店しました。

 

――では、江古田の好きな所や魅力は何ですか?

江古田の人って、育ちが良いと感じます。お客様が店に入ってくる時に、「ごめんください」とか「中見せてください」とか、必ず何か声かけてくださるんです。今はコンビニとかに慣れ過ぎて、店員とお客さんが会話をしながら何か買い物をするという事があまり好きじゃないのかもしれないですけどね。無言で入って出ていけるような、勝手に自分の欲しい物を選べる店でないと嫌っていう人が、今までの人生経験から考えると多かったのですが、江古田は古き良き昭和の香りが残っている気がします。みんながみんなに対して非常に礼儀正しく生きている人が多いなという気がしますね。温かいですね。「あれ知ってる?」って聞かれて教えるでしょ?そうするとすぐ行って、「教えてもらった所、本当によかったわ」って、またお礼言いに来てくれます。それにみなさん教養が高いですね。私が話をふればふっただけ、お客様もこういう事あるわね、こういう人知ってるわ、こういうもの見たことあるわ、ってどんどん話が広がっていきます。東京でこんな所があるんだって感じですね。

 

  

 

――お店の名前の由来は何ですか?

まず、横文字はパッと見て分からないと思いますし、カタカナの言葉も、意味が何となく通じにくいなと思って脱落させました。あと一文字だけだと、外から見て何のお店か分からないので悩みました。色々検索したりもしましたが、うちの店は何を売ってますよというのが分かった方が良いと思って、わざと長い枕詞をつけました。「環」というのは、私が仕事で中国語がどうしても必要で、自分で勉強している中で漢字をもう1回調べ直すことが多々あったわけですよ。その中で、今まで何の気なしに使っていたけど、「終わらない=endless」という意味があると知って、お客様に愛されて、ずっと続けばいいなと思って名付けました。自分の事業が続くことと、お客様との人間の輪が広がっていけばいいなとか、そんな思いを込めています。

 

――では、商品はどのようにして見つけているんですか?

基本的に私は現地に行きます。何を見て商品を発掘するかは、雑誌、本、テレビ、ラジオ、何でもいいのでアンテナを張るようにしています。そこで見つけた物をこれいいなって思ったら、生産者に会うべく、その物に出会うべく、商工会議所や県庁の産業課などの公的機関や自分のコネクションを使って、まずはそこに行きます。行かないと分からないことが多々ありまして、この人だったら、この人の作るものだったら扱いたいなあと思えたら取引を申し込みます。また、現地に行って当初予定していた所をピンポイントで見て帰ることはまずないです。そこに行ったおかげで、また出会う物や目に入る物について、その場で聞ける事は聞いていきます。1回どこかに行ったら、2、3日必ずそこに滞在するようにしています。1日で行って帰って来るというのは、空気感も分からないので駄目ですね。そんなことを年に1~2回しています。あとは東京で展示会も多いので、そこに行くこともあります。

 

――じゃあ常に情報を取り入れているんですね。

そうですね。一度人と出会って知り合うと、さらにその人が自分の知り合いを紹介してくれたりして、人間関係が広がって繋がることがあるんですよ。だから人間関係を続けていくのが有効かなと思いますね。例えば、大学生の方たちも色んな所で色んな人達に出会うと思います。例えば名刺だけ交換しているとして、1年に1回その名刺を見直すと、多分誰ともその後連絡を取れてないと思います。そんな時には時候の挨拶で良いので、自分の事を「最近こんなことしてます」とか教えるだけで、それがきっかけになって、「久しぶりに会おうか」とか、「こういうことを今こっちはやっていて」という情報が返ってくるかもしれません。あと、いきなり自分の欲しい情報を持っていませんかと聞いてしまうのも1つの手です。1回名刺交換したら知り合いですから、いかに厚かましくなってそれをできるかですね。悪い話じゃない限り、大人はみんな答えてくれると思います。

  

――雑貨屋さんをやっていて良かった事は何ですか?

色んな人と出会えることですね。大した時間一緒にいるわけではないのですが、何か共通の話題ですごく深く知り合ったりする時があるんですよ。こんなに色んな人と出会って話せるのはお店をやっているおかげだなと思います。実店舗なしの仕事もいっぱいありますよね。私も通販をやっていて分かるのですが、生身の人間に会って、声を聞いて、表情を見て話をしている方が、受け取る情報がすごく多くて、相手のことを言葉で表現できない所で好きになる事が多いような気がしていて、「好き」がたくさんありますよ。雑貨屋をやっていて良かったです。

  

――和雑貨の良さはどういう所だと思いますか?

「和雑貨」というか、「生活必需品ではないもの」というカテゴリーで回答しますと、必ずこれじゃなきゃいけないわけではないけど、その人にとってこれはあった方が楽しいとか、何か知らないけどこれを使うと心がホッとするというのが、雑貨や物かなと思うんですね。うちでお椀1万6千円とかおひつ3万円という商品もあります。それを買える人っていうのは、お財布にそれだけお金が入っているわけです。入ってない人はそれを選ばないわけですが、代わりに別の物が同じ機能であるわけですよね。その中でも好きな色形を皆さん選んでるわけですから、生活必需品ではないんだけど、人の心を潤わせる何かがあるんだなと思いますね。自分の美意識や価値観が、形になっている状態で手に入るから満足感もあるのだと思います。

 

――お店の人気商品は何ですか?

かやの布巾です。住宅街の中の雑貨屋ですから、主婦の方が「この間はありがとうね」ってお返しする時に、ちょっとつけたいっていうアイテムとして買われています。実用品として使ってずっと残るのではなくて最後は捨てられる消耗品っていう所で、主婦の心にすごくマッチするらしいです。あとはやっぱり、私が漆をアピールしているだけあって、漆のお椀もよく出ますね。うちはそういう伝統工芸師が作っている物の他に、工業製品として作られている漆の商品も扱っています。安心安全っていう言葉をキーワードにしているので、普及版の製品でも薬剤を一切入れないで作っているメーカーさんの物だけを扱っています。他にも紙製品が意外と売れていますね。越前和紙の商品を扱っているのですが、色や模様がすごく可愛らしいので、海外の方にプレゼントでとか、旅行の時のお土産にしたいというので、人気です。

 

  

――今の時期にオススメなものは何ですか?

今治のタオル屋さんが、タオルに使う糸を使って編んでいるレースのハンカチがあるんです。白しかないんですけど、白いハンカチはファンデーションがついたりしたら汚れが目立つから、自分用には買わない人が多いんですよ。だけど、そのレースがとてもきれいなんです。自分用には勿体無いから買えないと言いながら、贈り物としてお買い上げ頂くことが多い品物で、オススメです。それからあとは下駄ですね。これはもうこの季節の定番だと思います。自分でも使っていますが、その下駄は痛くなくて気持ちいいんです。試着してみて、もうびっくりしちゃってその場で予約してくれるという事が多い商品です。私も履いているから、感動するのが分かります (笑)

 

  

――最後にこれからどんな風にお店を展開していきたいと考えてますか?

やっぱり店売りっていうのは、1人相手してたら2人も3人も同時には無理なので、店売りは今のペースでゆっくり1対1を大事にしていきたいですね。でもそれだと、時間あたりの接客人数に限界がありますよね。ですから、事業拡大のことを考えると、お店の方は変化させず居心地よくしておいて、通販を頑張ろうかなと思っています。その通販は、全国区にしたいっていう野望はありますね。こんなちっちゃな店でも、例えばいつもここのサイトのブログを見ていたとか、この商品がすごい気になって出張の時来てくれたという方が、一升瓶のボトルカバーを買って帰ってくださったことがあります。静岡の方がお母さんに会いに来たついでにうちの店に寄ってくれたとか、県外からも来てくれるようなお客様を見ていると、意外と皆さん見てくれているんだなという自信になります。ですから、全国区になってみようという野望も、そんなに絵空事でもないのかなと思います。

 

――環さん、ありがとうございました!!

 

『江古田であそぼ』TOPへ

1 2 3
PAGE TOP