学生&卒業生インタビュー第8弾【武蔵大経済学科卒・田中 健太先生】

2015年07月08日

武蔵大学では前期がそろそろ終わりに近づいてきました。皆さんも夏休みが近づき、課題やテスト勉強に忙しい時期でしょうか。
夏休みが終わり後期になると、武蔵大学では1年を通じての研究の成果を発表し、競い合う「ゼミ大会」がありますが、特に経済学部の学生はこのゼミ大会に向けての研究を頑張っていると思います。
そこで今回は、わずか2年でゼミ大会を優勝するまで力を伸ばした田中ゼミに着目し、田中健太先生にお話をうかがいました!

その指導にはどんな秘密があるのでしょうか・・・!?

 

※ゼミ大会…経済学部に所属するゼミが「経済」「経営」「金融」などのブロックに分かれ、優勝を目指してプレゼンテーションを繰り広げる大会です。発表後は社会人審査員や教員からの講評を受け、内容と表現についての評価基準をもとに、公正に審査されます。表彰式(懇親会)では優勝賞金や協賛企業からの賞品も用意されています。なお、ゼミ大会の企画・運営は、学生団体の「ゼミナール連合会」が中心となって行っています。
参考URL→http://www.musashi.ac.jp/seminar/kosei/seika/taikai.html

 

田中健太(たなか けんた)
武蔵大学経済学部経済学科 准教授

2007年 武蔵大学経済学部経済学科 卒業
2007年 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 経営学専攻 博士前期課程 入学
2009年 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 経営学専攻 博士前期課程 修了(経営学修士)
2009年 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 国際開発専攻 博士後期課程 入学
2010年 東北大学大学院環境科学研究科 環境科学専攻 博士後期課程転入学
2010年 日本学術振興会 特別研究員DC2 (2010年4月~2012年3月)
2012年 東北大学大学院環境科学研究科 環境科学専攻 博士後期課程 修了(環境科学博士)
2012年 東北大学大学院環境科学研究科 産学官連携研究員(2012年4月~2013年3月)
2013年 武蔵大学経済学部 専任講師(2013年4月~2015年3月)
2015年 武蔵大学経済学部 准教授(2015年4月~)

 

 

中先生が専門とする経済学とは?

 

—経済学とはどのような学問でしょうか?
田中先生1

定義は色々あると思います。基本的には実際に社会で色々起きている問題について、お金や資源(ひと、もの)の制約などがあるなかで、どうやってその資源を活用していけば社会の問題が解決できたり、世の中が良くなるのかを考えるような学問だと考えてもらえばいいと思います。
例えば産業組織論であれば、企業の行動で見たときにどういうような市場の環境整備をすれば、社会にとって良いようなアウトプットが出るのか、と考える。環境経済学であれば、どういう風に経済活動が起こって、環境問題が起こるのか。そしてそれに対してどのようにアプローチすればよいのかを経済学的に分析することになります。

 

※産業組織論…現代経済の中心的な主体である企業の行動に焦点をあて、市場構造の変化や様々な制度、経済状況の変化がどのように企業の行動を変化させ、結果的に社会や経済に影響を与えるのかを研究する学問。

※環境経済学…環境問題について、経済学の視点からアプローチする学問。武蔵大学の環境経済学の授業では、外部不経済、ピグー税、環境税、コースの定理、排出権取引などといった概念を取り上げ、経済理論をもとに理解を深める。

 

—どうしてこの学問に興味をもったのでしょうか?

高校生のときにどういう勉強がしたいかなと考えたときに、やっぱり世の中を知るには、経済を学ぶのが必要不可欠ではないかと考えたんです。例えば日本史を勉強して歴史を見てみても、起こった事件などには、経済的な現象がバックグラウンドにあります。世界史もそうですよね。実際に資源とか、経済的な問題から戦争や事件が起きたりするので、経済を学べば世の中のことがよりよくわかると思い、興味を持ちました。

 

ブロック優勝&準優勝を勝ち取ったゼミ大会

 

—田中ゼミは昨年のゼミ大会でブロック優勝と準優勝を勝ち取りました。具体的にはどのような研究をされたのですか?

私のゼミでは、まず共通の大きなテーマを決めて、それに基づいて学生のグループが自由にテーマを決めて研究をします。その中でコンペティションをして良かったグループがゼミ大会に出るという方式をとっています。去年の3年生の大きなテーマは観光でした。その中でゼミ大会に出場したグループは、「ビジット・ジャパン事業」を研究しました。海外から日本に来るお客さんを誘致する現状の政策が本当に大丈夫なのか、もっと効果的な手立てがあるのではないか、と言う事を分析しました。
2年生の方は、消費税をテーマにしました。ちょうど消費税が上がる時期だったので、消費税が上がった時に、経済にとってのインパクトを減らすためにどのような施策が必要なのかということを分析しました。

 

※ビジット・ジャパン事業…国土交通省・観光庁が取り組む、訪日旅行促進事業のこと。
参考URL→http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/vjc.html

 

—優勝、準優勝されているのは、何か工夫していることや秘策があるのでしょうか?

特に無いですね(笑)

基本的にうちのゼミは歴史が浅いので、まだ形もできていないと思っています。第一に現実で起こっている経済問題について学生に興味を持ってもらいたいと考えているので、テーマを各自に任せています。それでそれに沿って、実際どのように分析すればよいのか、というのを、私がアドバイスする形をとっています。

もちろん、ゼミ大会に出ることになったグループにはさらにコメントしたり、修正を手伝ったりしてますけど、秘訣と言うよりは、論理的に正しくできているかどうか、内容が面白いかどうか、他の人に理解をしてもらえるかを確認しています。重要性を理解してもらえれば評価にちゃんとつながるんじゃないのか、というのが私の考えで、気を付けているのはそれだけです。

 

武蔵大生時代

 

—田中先生は武蔵大学のご出身ということで、最初に武蔵大学に入ろうと思ったきっかけは何ですか?


正直に言うと、他の大学に落ちてしまったからなんですけど(笑)。でも、実際私はあんまり大きい大学は嫌だったので、少人数のところが良いなあと思って武蔵大学を選びました。また、周囲の人間関係や環境を変えたいという気持ちもあって、武蔵大学なら今までの知り合いがいなかったからというのも理由の一つです。

 

—当時ゼミなどで学んだことで、印象に残っていることはありますか?


在学中は、松川勇先生のもとで環境経済学について学びました。仲間たちにも恵まれて非常に活発なゼミでした。今も当時のメンバーとはつながりがありますし、松川先生は今でも武蔵で教鞭をとっておられます。

今の研究テーマに関して始めようと思ったのは、学部生の頃に関心を持ったことや、ふと疑問に思ったことを追求できたからなんです。それをモチベーションに大学院に行ったというところがあるので、松川先生には感謝をしています。

 

—ちなみに疑問に思ったことというのは、具体的にはどういうものなのでしょうか?

企業間でCO2を排出する権利を売買する、排出権取引については知っていますか?たとえば日本で各企業にこれだけCO2を削減しなさいという命令があったときに、やっぱり無理な企業は無理なんですよ。削減費用がとても高い企業もあります。そういうところは他の企業が減らした分、排出権を買ってきて、減らしたことにするという制度があるんですね。電力会社を対象にした取引のシミュレーションみたいなのを、ある研究機関が作っていて、その被験者を松川ゼミみんなでやってたんですよ。

それで、原発を何年か後に建てるぞ、みたいなそういう意志決定をするゲームみたいな感じで、排出権取引をしていくんですけど、これが面白くて。みんな排出権取引市場を信頼しないので、原発をガンガンガンガン建てるんですよ(笑) なぜかというと原発を建てるとCO2が減るので、その分余った排出権を売れるんですよ。でもよくよく考えると、その分排出権が余ってしまうんですよ。そうすると、無駄に原発が稼働しちゃって、発電コストが高くなって、無駄な費用がかかってしまう。本当はみんなでちゃんと取引すれば上手くいくのに、なぜ起きているのかというと、市場が上手く機能していないからですよね。要は排出権取引市場の実態が企業の投資や意思決定、技術の開発、導入などに大きく影響されているということがわかったんです。それが面白く、研究したいなと思って、大学院に進学しました。

 

—なるほど、それでは当時から勉強熱心だったんですか?

DSC02049勉強は割としてたと思います。でも、基本的に私は勉強嫌いなんですよ。えっ!?と思うかもしれませんが、私のモチベーションは好奇心なんです。学問的な疑問を解決するには、勉強しなきゃいけない。だから勉強するんです。
もう一つモチベーションとしては奨学金が取りたかった。勉強してお金がもらえるならいいなと思って、ひたすらいい成績をとり、奨学金をもらうことに邁進してました(笑)武蔵大学は結構奨学金が充実してるので、ちゃんと成績をとれば色々サポートしてもらえます。そういうところで環境に恵まれたなって思います。

 

—学生生活は勉強中心だったんですか?

そうですね。私はサークルとかには一切入っていなかったんですよ。でもこの大学はサークルに入らなくても友達は沢山できるので、授業が終わったら飲みに行こうぜっていったり(笑)

それだけじゃなくて、生協学生委員会に友達が多かったので、その手伝いなんかもして、3年生の半分くらいは生協学生委員会として活動をしたりもしました。あとは学友会関係でも、少し活動しましたね。そんな課外活動もやりつつ過ごしてました。

 

※武蔵学園生協学生委員会…武蔵学園の生活協同組合の学生スタッフ。生協加入者である組合員の大学生活が豊かになるように活動している。
過去に公開したこちらの記事もチェック!!→うぇるかむさしパーティー~一足先に武蔵大生デビュー!~

※学友会…武蔵大学の学生の自主的意思に基づいて学園生活を充実・向上させるための組織。

 

—アルバイトはしていなかったのですか?

長期のバイトはしてませんでしたね。でも、短期で出来ることはやっていました。あと、生協購買書籍部でバイトはしてました。あとは、税務署のバイトは面白かったですね。申告書をひとりずつチェックして、番号を確認するだけなので、時給は安いけれども楽でした。

 

大学院生時代

 

—武蔵を卒業した後、なぜ別の大学の大学院に進学したのですか?田中先生3


元々外には興味があったのですが、一番の理由は、やっぱり師匠(松川先生)の推薦です。もちろん、武蔵の大学院もいいと思うんですけど、外に出る経験も必要かなと思いますね。
実際に師匠から紹介してもらった人は、今は本当に世界的にも有名な環境経済分野の研究者の方でした。年齢も私と9つ位しか変わらない若手の研究者で、非常に優秀だからその人の元で勉強して、論文を書いた方がいいと薦められて、3年の夏休みくらいから会っていました。非常に研究に対してストイックで、厳しい人なんですけど、私と考え方の方向性が一緒だったので、是非行かせていただきたいということになりました。厳しい環境でしたが、そのときの指導教授のおかげで今があると思います。
さらに言うと、経済学と言うのは、国際的な戦いをしている学問なんです。研究者ランキングまで出ているんですよ。『田中健太、何位』って。僕はまだそんなのに載らないんですけど(笑)。個人名で、どこの所属の誰だ、ということまで載ります。そのような世界なので、英語で論文を書いて、国際的に認められる必要があるという時に、その最先端で研究している人の所で学んだ方がいいだろうと言うのが、師匠の言っていたことでした。実際そこで出来たネットワークは今も続いていて、学んできたことも、少しずつ芽が出てきたと思います。学部の頃に取り組んでいた排出権取引のシミュレーションに始まり、実験経済学を学び、それを応用して途上国などで分析をしてみようというところまで発展させることが出来ているので、やっぱり環境があるところに行く、チャレンジするということは、大事だなぁという風に思っています。

 

—大学院に進んだ時に、研究職に着きたいという想いはあったのですか?

私は最初からありました。実際のところ、博士の後期課程まで行くと、なかなか生きていけないんですよ。要は職がないんですよね。昔、100人の博士の村っていう、怖い話があったんですよ。博士後期課程まで行く人たちが、そのあとどう生きていくかというもので、今も探せばあると思います。それをみると、なかなか研究者、要は大学の先生や、研究所である程度のポジションを貰えるということは無い。結構つらいんですよ。

※博士が100人いる村→http://www.geocities.jp/dondokodon41412002/index.html
編集部注:こちらの話は、データに明確な根拠がありません。あくまで例え話として、分かりやすくするために掲載しているものですので、ご注意ください。



だからそこは覚悟して、やるんだったらとことんやろうと思って大学院に入ったんです。でも結構つらかったですけどね。しごかれたので(笑)

あとは、会社に入りたくなかったというのもありますね。それはネガティブな意味で働きたくない、というわけではなくて(笑)
私は組織に対するロイヤリティが高いんです。組織のために頑張ろうとなってしまう人間なので、会社に入ったら、会社のために頑張ろうと思うだけの、つまらない人間になると思ったんです。アカデミックな人は社会を知らないとか言われますけどそんなことは全くなくて、色々な人と話せる機会もあるし、研究者でも社会を知らないと論文を書けないし、研究もできないんですよ。なので、経済学を中心に色々なことを知って、その上で、客観的に物事を見て研究できるようになりたいと思ったのが、大学院に行って研究者になろうと思ったモチベーションです。

 

 

先生の生活

 

—大学の先生はどういった一日を過ごされていますか?

場合によりますし、人によりけりだと思います。私の場合は研究中心です。もちろん教育活動も大事なんですけど、正直なところ、あまり私は教育者には向いていない人間だと思っています。これはゼミ生にも言っています(笑)大学にいてゆっくりと研究が出来るときは研究をしますけど、外に呼び出されたりもします。例えば、研究プロジェクトも掛け持ちでいくつか持っているので、他の大学に行って議論したりもしますね。ちょうど今週も早稲田大学に行ってきました。そういった研究の打ち合わせは結構多いですね。

 

—ではかなり多忙な生活を送っていらっしゃるんですね


そうですね、私の場合は自分で勝手に多忙にしているんですけどね。大学の仕事と、研究と、教育活動とで、かなり充実した生活を送っています。

 

最後に

 

—最後に、武蔵大生の印象を教えていただけますか?


『普通』ですよね、正直な感想で言えば。でも、それが良いところでもありますしね。都内の中心の大学はどうしても華やかになって、ちょっと落ち着かない部分もあるんですけど、武蔵は素朴感があって、私は非常に好きな雰囲気です。他の大学の先生も、雰囲気が非常にいい、学生さんが非常にいいと言ってくださっています。私自身も後輩達が頑張ってくれているのは非常に嬉しいです。

 

—武蔵の学生にもっとこうして欲しいと思うことはありますか?

もっとチャレンジしてほしいと思います。少し内に固まりがちかなという傾向はあるので、特に周りは気にせず、様々なことに挑戦するのも、大事だと思います。もちろん外に出る学生もいるとは思うのですが、もう少し、自分がああしたいこうしたいと言う意欲を持って、活発に動けるようになってもらえればいいなと思います。

 

—田中先生、ありがとうございました。

 

 


田中先生はインタビュー中、終始楽しい雰囲気でお話をして下さいました。そのような学生に近い目線で話して下さる姿勢や、学生に自由に考えさせるスタイルが、田中ゼミの学生を成長させているのかもしれませんね。また、武蔵大学だけでなく、外の世界にも積極的に学びにいく姿勢は、私たちも見習いたいと思いました。外に飛び出していくのは勇気がいりますが、恐れずに何事も挑戦していきたいです。

 

[社会学部2年 新井、宮原]

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