【丸橋珠樹 教授】武蔵大学にいる理系の先生とは?
【コンゴでのエピソード】
フィールドワークというキーワードが出ましたが、
丸橋教授はフィールドワークを大切にされているとお聞きしました。
まずは、ご自身のフィールドワークについてのエピソードをお聞きしたいです。
そうだね・・・それじゃ、これを読んでもらおうかな。
(丸橋教授のフィールドレポートを差し出して)
アフリカ中央部のコンゴで、霊長類調査を始めたばかりの頃の話。
そこでは森の仕事のために、バカ人(外の人はピグミーと通称)と自称している森の民を雇ったんだ。
現地の熱帯雨林では道に迷えば、それは死を意味するからね。
熱帯雨林には、見渡せるような場所も無ければ、目印になる建物もないですからね。
その通り。
驚いたことに、彼らは僕たちとは全く違う方法で、地形や自分たちの位置を把握するんだよ。
君たちなら、どうやって地形や位置を把握するかな。
地図とコンパス・・・ですかね。
そうでしょ?
でも、彼らにはコンパスは必要ないんだ。
なぜなら、森のどんな奥に進んでも、始めての地域を歩いても、「キャンプはどこ?」と聞くと、
驚くべき正確さで「この方向」と指すから。
す、すごい!
スマホで地図アプリを開いているにも関わらず、迷ってしまう人もいるというのに。
同じ人間とは思えません。
そんな彼らに支えられて、フィールドワークを安全に行うことができたんだよ。
どんなフィールドでも、現地の人とのコミュニケーションと信頼関係が、安全とより良い研究の基盤だという学びだよ。
う〜ん。
(2人とも深く納得して、うなってしまう)
丸橋教授の経験に裏付けされた、興味深く学びのあるエピソードでしたね・・・
ここまでは丸橋教授ご自身のフィールドワーク体験談をお聞きしてきましたが、
武蔵大学の学生に向けたフィールドワークについても、お聞きします。
丸橋教授は、埼玉県にある学校森林での間伐実習・赤城山での植物野外実習など、数々のフィールドワークを担当されていますよね。
武蔵大学の学生に、フィールドワークの機会を提供されてきた意図・想いなどを、お聞かせください。
先ほど話した、〝記憶〟を大事にしてほしいという意図があるね。
そのためにも、色々な人に会って話を聞いたり、自分の身体で見て・感じてほしい。
今年度の国東半島農業研修では、私もお世話になりました。
※丸橋教授は2006年より、大分県武蔵町(現国東市)との交流事業を担当されています。
武蔵大学の自然科学・身体運動科学分野活動ブログでは、この研修を含めた様々なフィールドワークの様子を見ることができます。
(詳しくはこちら。大学の当該ページに飛びます)
↑大分空港にて。(撮影:丸橋教授)
今の学生はやることが多く、日々の生活や授業の課題に追われている人もいますからね。
そういうふうに社会から仕込まれていくんだよ。
「断片的に、短い時間を効率よく使うように」と言われてる。
「タイパ」(タイムパフォーマンス)という単語が、それを表しています(笑)。
その通り(笑)
人生のうち、大学生の4年間くらい「タイパ」なんて関係ない世界で生きないと!
学生のうちにしかできないことを大切にしてほしい。
(時間のやりくりなど)内向きにならずに、色々なものに〝ぶつかる〟ことだよね。
「社会人に向けて、やりくりを上手に!」とは、よく言われますが・・・
丸橋教授のようなことを言ってくださる年上の方は、なかなかいませんね。
教授の研究室を訪ねる学生が減ったよね。
昔の研究室は学生の溜まり場で、みんなでゴロゴロしたり、ご飯を食べていた。
今は教授1人につき1部屋で、入りづらい雰囲気。
学生の溜まり場になるような空間設計になっていないよ。
たしかに、研究室に気軽に行こうとは思いませんね・・・
今の大学施設は、「授業を受けるための設備」という印象です。
生徒と教師とか、見知らぬ生徒同士が交流できる環境だといいよね。
ところで、2人はマヨネーズの材料を知ってるかな。
(いきなり、どうしたんだ・・・?)
マヨネーズですか??
(ざっくり言うと)卵・酢・油ですよね。
その通り。本来、ゼミは「マヨネーズ」が理想なんだよ。
異なる存在同士だけど、上手に混ぜたら美味しくなる。(新たな「何か」が生まれる)
でも、交流や対話がないと、最後まで3つに分かれたまま。
ぜひ武蔵大学では、「マヨネーズ」な環境を探してほしいね。
せっかくの「ゼミの武蔵」ですから。
僕も交流や対話を通して、「マヨネーズ」の状態を目指したいです。
これからは大学も、「ゼミの武蔵」ではなくて「マヨネーズの武蔵」って言ったらいいのに。
(一同笑い)
↑今のところ、「ゼミの武蔵」です。
今回の取材を通して、数々の興味深いお話をお聞きできました。
丸橋教授はユーモアに富み、終始和やかな雰囲気のインタビューとなりました。
印象に残ったのは、教授の話し方です。
ご自身のエピソードトークに終始するのではなく、適宜、私たちインタビュアーにも問いかけます。
「なぜだと思う?」「君はどうなの?」
人の話は聞くだけでなく、それを踏まえて「自分はどのように考えるか」「どのように行動するか」
が大切なのだと、気付かされました。
対話を重ね、お互いの意識をアップデートしていく姿勢が、丸橋教授の周囲に人が集まる要因なのかもしれませんね。
残念ながら、丸橋教授は今年の3月で特任教授を定年となり、武蔵大学での授業は持たれないことになります。
それを受け、2023年2月25日に最終講義が行われました。
記事の最後に、その様子を写真でご紹介します。
最終講義は「森を歩き森から学ぶ—フィールドワークの楽しみ」という題目でした。
8号館の教室は満員となりました。
ユーモアあふれる、丸橋教授の語り口で講義は進み・・・
最後には花束が贈られ、最終講義が無事に終了しました。
当日は在校生や卒業生、教職員の方々が参加され、中には親子でいらっしゃる方も。
幅広い世代が丸橋教授のお話を聞こうと集まる様子は、
分け隔てなく、人と接する丸橋教授の姿勢を表わしていたのではないでしょうか。
取材協力:武蔵大学 丸橋珠樹 教授
取材・撮影・執筆:人文学部3年 横田
取材・撮影:社会学部3年 寺田
<参考・引用元>
Wikipedia『カリン (バラ科)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/カリン_(バラ科)
ジャパンナレッジ:日本大百科全書(ニッポニカ)『門付』
https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=1001000051884
武蔵大学同窓会報『武蔵』(2022年1月号)
武蔵大学ホームページ
イラスト:いらすとや